【所長のコラム】/鏡森定信

命の防波堤 ―自殺の名所、東尋坊での命を繋ぐ活動―

 越前加賀海岸国定公園にある東尋坊で何人もの自殺企図者を救助した警察官、茂幸雄氏、
退職後に仲間を募りNPOを立ち上げ20年に至らんとする活動の記録が出版された。平均年齢70歳以上の会員10人余で午後から日没時を中心に1時間ごとにパトロールし断崖絶壁に立ちすくみ躊躇する人を見つけると、自分たちが経営する東尋坊商店街の茶房「心に響くおろしもちや」で、心を解きほぐすようにゆっくり話を聴き、必要なら福井市にあるシェルターで休養してもらうという。また、夜間の電話相談や悩み事解決のため自殺企図者同伴で県内外の家庭、職場、行政に赴くことまで行っている。活動が評価され支援も増え、これまで778人の尊い命を繋いできている。活動を振り返っていくつもの提案がなされている。①生活保護取得では県外者は敬遠される傾向があるので、管轄外の人には国費をあてがう、②精神を病んでいる人では薬物依存症になっていることが多いので、非薬物療法をもっと強化すべき、③家庭内での人権侵害事案にも法律家は積極的に介入してほしい、④国民の命や財産を守るために必要な情報まで隠されてしまう個人情報保護法の改定が必要、⑤新興宗教の有害行為の内容を公表すべき、等々である。以下、茂氏の言っていることに共鳴し紹介して本稿を閉じる。
自殺まで考えた人は「自力で脱出」することができない、「死んで解決する」という考えにとらわれないようその人の特性に合わせた「孤立からの解放」に向けたお手つだが必要である。「死にたい」ではなく、「誰かに話を聴いてほし」という思いで東尋坊へ訪れる人が一人でもいれば、この活動を間続けてきたことに意味があったと思う。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加