有機溶剤中毒予防規則の29条に,健康診断の詳細が述べられています.同30条には,「有機溶剤等健康診断個人票」の内容が「様式第3号」として示されているわけですが,「有機溶剤等健康診断結果報告書」はその「様式第3号の2」になります.下記に示す,尿中の代謝物を測定すべき8種類の有機溶剤については,この「様式第3号の2」の別表として提示されているものです.したがって,詳細は有機溶剤中毒予防規則を見ていただきたいと思います.
有機溶剤 |
検査内容/尿中代謝物 |
単位 |
分布1 |
分布2 |
分布3 |
キシレン |
メチル馬尿酸 |
g/l |
0.5以下 |
0.5超 1.5以下 |
1.5超 |
N・N-ジメチル
ホルムアミド |
N-メチルホルムアミド |
〓/l |
10以下 |
10超 40以下 |
40超 |
スチレン |
マンデル酸 |
g/l |
0.3以下 |
0.3超 1以下 |
1超 |
テトラクロル
エチレン |
トリクロル酢酸
総三塩化物 |
〓/l
〓/l |
3以下
3以下 |
3超 10以下
3超 10以下 |
10超
10超 |
1・1・1-トリクロルエタン |
トリクロル酢酸
総三塩化物 |
〓/l
〓/l |
3以下
10以下 |
3超 10以下
10超 40以下 |
10超
40超 |
トリクロルエチレン |
トリクロル酢酸
総三塩化物 |
〓/l
〓/l |
30以下
100以下 |
30超 100以下
100超 300以下 |
100超
300超 |
トルエン |
馬尿酸 |
g/l |
1以下 |
1超 2.5以下 |
2.5超 |
ノルマルヘキサン |
2・5-ヘキサンジオン |
〓/l |
2以下 |
2超 5以下 |
5超 |
頻繁に使用されてきた有機溶剤のうち,気中濃度と尿中の代謝物との関係が詳細に研究されたものについて,上記のように定められました.気中濃度の測定だけでは,作業者の実際のばく露状況を把握することがしばしば困難だったからです.
分布については,次のようにまとめることができます.
〓 分布の区分は,正常・異常の鑑別を目的としない.
〓 実際に体内に吸収された量を反映する重要な指標である.
〓 分布1から3に向かうほど体内ばく露が大きい,ことを意味する.
〓 分布2と3の境界値は,ACGIHの生物学的ばく露指標(BEI)と等しい値が用いられている.
〓 分布1と2の境界値は,分布2と3の1/2から1/3の値が基準(トルエンでは尿中馬尿酸濃度は正常値の上限に近い値).
〓 環境測定の評価と,生物試料による評価(分布)は整合性があるように設定されている.
参考書
「生物学的モニタリング-理論と実際-」緒方正名,篠原出版,平成3.3,p51-.
「有機溶剤健康診断のすすめ方」全国労働衛生団体連合会編,1990.4, p.106.
なお,リスクアセスメントとの関連では,管理区分と同じと考えて対応していただければよろしいです.すなわち,次のようになります.
(1) 分布1≒第1管理区分≒リスク・低
(2) 分布2≒第2管理区分≒リスク・中
(3) 分布3≒第3管理区分≒リスク・高
として対応.すなわち,
(1) 分布1:その状態を継続する.点検はおこたらない.
(2)分布2:多少とも曝露・吸入されているので,その原因を探るよう努め,対策へつなげる.
(3)分布3:かなり曝露・吸入されているので,その原因を探らねばらないし,結果に基づいて対策をたて,実行しなければなりません.