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産業保健Q&A(回答)

Q:「はか」とは何ですか.まさか「墓」ではないでしょうね.
【回答者】富山産業保健推進センター所長 加須屋 實
回答
「墓」ではありません.「破瓜」でもありません.有機溶剤の話の中で出てきたそうですから「破過」のことです.

 ろ過式呼吸用保護具の防毒マスクを使用する場合,吸収缶の除毒能力には限界があります.吸収剤が飽和すると有害なガス・蒸気はそのまま通過してしまいます.このような状態を破過といい,それに至る時間を破過時間といいます.すなわち防毒マスクの吸収缶は,破過時間前に取り替えなければなりません.

 「目詰まりしてきたら換える」,「臭いがしてきたら換える」という現場がよくありますが,じつはあまり望ましいことではありません.破過時間を推定して,適切に吸収缶を取り替える方法に,次のようなものがあります.

〓 一般的には:「1日の使用時間別の有毒ガス濃度の上限」は次のようになっています(「産業医学実践ガイド」和田攻編著,文光堂,p163-,1998).ただし,吸収缶の能力は,温度,湿度,呼吸量,保存状態などで変わりますので,機械的に当てはめるのは危険です.

  一日に30分から8時間以内の使用条件で{( )内は30分以内使用の場合},次のようになります.


・隔離式    2.0%ただし管理濃度の100倍(300倍)
・直結式    1.0%ただし管理濃度の100倍(300倍)
・直結小型式  0.1%ただし管理濃度の 10倍 (30倍)

 例えばトルエンの場合,管理濃度は0.005%(50ppm)ですので,1日30分を越える作業では,隔離式なら管理濃度の100倍,環境濃度が0.5%までは使用できる,ということになります.環境濃度がそれ以上の場合,供給式呼吸保護具を使用するべきです.

〓 普通には:気中ガス濃度がわかる場合であって,吸収缶の製品に添付されている破過曲線図を利用します.気中濃度が低い場合には破過時間が長く,高い場合には破過時間は短くなるわけですが,その関係を示した図に当てはめて判断します.

〓 実際的には:実際には,作業場のガス・蒸気の気中濃度が激しく変動して上記の方法を使えないことが少なくありません.また濃度が不明のことも多いでしょう.その場合一つの方法として,吸収缶の重量を測定し,上限を参考にして取り替える方法があります(木村菊二,村上正孝,関真人,平成13年度産業保健調査研究抄録集p37-38).その職場環境で使用されている吸収缶のいくつかについて重量を毎日(いつも取り替えていた状態まで・破過を感じられるまで)測定し,重量の上限を探ります.「破過時点の吸収缶の質量増加は18グラム前後」といった報告があります(前記文献).上限の推定ができましら,次回からは適宜,あるいは毎日測定して,上限の重量になる以前に交換するわけです.

 なお,吸収缶は密閉して保存して下さい.段ボール箱はあまりよくありません.ビニル袋に入れた上でお茶や海苔の缶に保存しますが,台所用品のタッパーは大小いろいろあり,密閉性も高く,安いのでお勧めです.


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