ブルガリアの温泉と産業保健—旅と健康の交差点
産業保健の分野においては、働く人々の健康を守り、仕事によるストレスや疾病を予防することが重要です。近年、その一環として注目されているのが「旅行医学」との連携です。なかでも、東欧諸国、特にブルガリアは、労働者の心身をリフレッシュさせる目的地として注目されています。私自身、現地の実情を確かめるためにブルガリアを訪れました。
ブルガリアは、ヨーロッパ有数の温泉大国であり、古代ローマ時代から湯治文化が根付いています。「バーニャ」と呼ばれるミネラル豊富な温泉は、ストレスの緩和、筋肉疲労の回復、慢性疾患の改善に効果があるとされ、多くの地元住民や観光客に親しまれています。また、国内各地には「チェシュマ」と呼ばれる水汲み場があり、ミネラルを含んだ温泉水が湧き出ています。これらの場所は、健康効果が期待されるだけでなく、人々がのんびりと過ごす憩いの場としても機能しています。
一方で、ヨーロッパの平均寿命は2023年時点で81.5歳であるのに対し、ブルガリアは75.8歳と依然として下回っています。他の東欧諸国と比べてもやや遅れが見られ、医療体制の脆弱さや生活習慣(喫煙・飲酒など)が影響していると考えられます。禁煙対策は進んでいるものの、喫煙率は依然として高く、屋外や一部の飲食店では受動喫煙のリスクも残っています。
健康的な働き方を支えるためには、「旅」という非日常の時間にも注目することが有益です。ブルガリアの温泉文化は、現代の産業保健における新たな可能性やヒントを与えてくれるかもしれません。
(Nomadoctor/小杉 由起(富山産業保健総合支援センター産業保健相談員)2025年7月)