【リレーコラム】/産業保健相談員 有澤孝吉

労働災害の度数率と予防対策

 産業医や衛生管理者の責務の一つとして、自分の働いている企業において、労働災害が標準的な職場に比較して多いのかどうかを評価することが挙げられます。
 通常、労働災害の頻度は、度数率(死傷者数/延べ100万労働時間)で表されます。例えば、自社における1年間の労働災害が6件あり、延べ労働時間が80万時間だったとすると、度数率は7.5/100万時間となります。今、令和5年の事業所規模100人以上における同業種の度数率は2.1/100万時間となっていて、自社の度数率が全国平均より統計学的に有意に高いかどうかを知りたいとします。このような場合、度数率の95%信頼区間を推定し、この間に全国平均が含まれるかどうかを調べます。
 この例では、観察された件数は6であり、ポアソン分布の表*から、イベント数(μ)の95%信頼区間は、(2.2, 13.1)なので、度数率の95%信頼区間は

(2.2/80万×100万, 13.1/80万×100万)=(2.8/100万時間, 16.3/100万時間)

となり、全国平均の度数率2.1/100万時間を含んでいません。したがって、自社における度数率は全国に比べて有意に高いと言えます。
 次のステップとして、(偶然変動による可能性は否定できないとしても)自社において労働災害が発生しやすい要因があると考え、労働衛生3管理の基本に立ち返り、作業環境管理、作業管理、健康管理の面から予防対策を行っていくことが求められます。
 上記の方法は、潜伏期の長い職業がん等の死亡率、罹患率にも応用可能です(延べ労働時間の代わりに述べ追跡期間を使用)。過去に問題となった校正印刷会社における胆管がんの多発事例等において、産業医、衛生管理者がもっと早期に疾病の過剰発生に気がついていれば、健康被害の拡大を防止できたのにと思われてなりません。

(*同一人が2回以上被災した場合を考慮していません。計算過程の詳細を知りたい場合は産保センターまでお問い合わせください。)

(有澤孝吉(富山産業保健総合支援センター産業保健相談員)2025年5月)

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