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研究・調査

富山産業保健総合支援センターの調査研究コーナー

平成31年度
ストレスチェックの集団分析結果を活用した職場環境改善に関する研究
研究代表者  富山産業保健総合支援センター  所    長     鏡森  定信
研究分担者  富山産業保健総合支援センター  産業保健相談員  大平  泰子
       富山産業保健総合支援センター  産業保健相談員  小杉  由起
       富山産業保健総合支援センター  産業保健相談員  中林 美奈子
       富山産業保健総合支援センター  産業保健相談員  稲寺  秀邦

【1】はじめに
 導入から約3年が経過したストレスチェック制度は、労働者自身のストレスへの気付きを促すとともに、集団分析による職場環境改善を進めることによって、労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防止すること(一次予防)を主な目的としている。第13次労働災害防止計画では、職場環境改善を行う事業場を60%以上とする目標をあげている。厚生労働省労働衛生課調べ(平成29年7月)によると、ストレスチェック制度を実施した事業場の割合は82.9%で、そのうち集団分析を実施した事業場は78.3%であった。ストレスチェック制度において集団ごとの集計・分析(集団分析)は努力義務として位置づけられていて義務化されていないため、ストレスチェックを実施しても集団分析を実施しない事業所もみられる。また、集団分析は実施していてもその分析結果が有効に活用されていない場合も少なくない。ストレスチェック結果を用いた職場環境改善を推進するために、集団分析実施率の向上とその効果的な活用方法を検討するための調査研究を行うこととした。

【2】研究1:ストレスチェックと職場環境改善に関する質問紙調査
1.目的
 ストレスチェックに基づく職場環境改善を促進するためのあり方について考察することを目的に、富山県内の事業場におけるストレスチェック、集団分析、職場環境改善の実施状況と各実施に関わる担当者の困りごとを明らかにした。
2.方法
富山県内の従業員50名以上の事業場932か所の事業主932人を対象として、2019年7月に郵送法による自記式質問紙調査を実施した。調査票の内容は事業場の属性(業種、従業員数)、ストレスチェックの実施状況(実施の有無、実施内容、問題や困っていること)、集団分析の実施状況(実施の有無、実施内容、問題や困っていること)、職場環境改善の状況(実施の有無、実施内容、問題や困っていること)とし、問題や困っていることについては自由記載で回答を求めた。対象者932人中470人(50.4%)から回答が得られた。このうち、職場環境改善の有無、業種、従業員数のいずれの項目にも回答があった463人(対象の49.7%)を分析対象とした。
3.結果と考察
1)分析対象463事業場のうち、ストレスチェックを実施していた事業場は399事業所(86.2%)であり、そのうち、集団分析を実施していた事業場は337事業所(72.8%)であった。
2)分析対象463事業場のうち、職場環境改善に取り組んでいた事業場は403事業場(87.0%)と高かった。しかし、その取り組みが集団分析結果に基づく実践であると回答した事業場は106事業場(22.9%)に過ぎず、ストレスチェックから集団分析、職場環境改善に繋がるPDCAサイクルの展開促進が今後の課題と考えられた。
3)担当者の自由記載から抽出された職場環境改善未実施の理由は、【必要性を感じない】、【ロールモデルがない】、【仕方がない】ことであった。また、職場環境改善を実施している事業場の担当者が抱える問題や困りごとは、【会社としての改善方針が決まらない】、【できることが限られる】、【改善に関わるマンパワーの不足】、【費用がかかる】、【時間がかかる】、【職場に“改善”の雰囲気がない】、【ロールモデルがない】、【会社全体の人員不足の問題が先決である】ことであった。現在の取組みの有無に関わらず、職場環境改善を定着・進化させるためには、ロールモデルの提示が必要であることが示唆された。
4)職場環境改善実施あり群の事業場では、実施なし群の事業場に比べて、(1)集団分析を実施している事業場の割合(p<0.05)、(2)日常的な相談指導体制があると回答した事業場の割合(p<0.05)、(3)富山産業保健総合支援センターの認知と利用があると回答した担当者の割合(p<0.05)が有意に高かった。両群において業種や従業員数の属性に差はみられなかった。本調査は横断調査であり因果を問うことはできないが、職場環境改善を促進するためには、事業場として集団分析に取り組む体制や日常的な相談支援ネットワーク体制を整備することの必要性が示唆された。
 
表1 職場環境改善実施事業場の特性(pdf)

5)ストレスチェックを起点としたPDCAサイクルによる職場環境改善を促進するための富山産業保健総合支援センターの役割を以下の通り整理した。
(1)身近な地域におけるストレスチェックを起点とした職場環境改善事例のロールモデルを提示すること。(2)担当者の集団分析に関する実践能力の向上を目指し、特に、「集団分析の考え方」「分析結果の読み方」「分析結果と実践活動の融合」等に関する研修や相談窓口を充実すること。(3)日常的な相談支援ネットワーク体制の整備に関する必要性の啓発や人材に関する相談窓口を充実させること。

【3】研究2:職場環境改善事例抽出のためのインタビュー調査

1.目的
ストレスチェックに基づく職場環境改善を促進するためのあり方について考察することを目的に、富山県内の事業場において実施されている職場環境改善の実践状況を明らかにし、ロールモデルとなる好事例を抽出した。
2.方法
研究1の対象者のうち、本調査への参加にも同意が得られた43事業場の担当者43人を調査参加者とした。データ収集には面接によるインタビュー調査を行った。対象者の属性、事業場の属性、事業場におけるストレス状況、職場環境改善の実施状況と実施における担当者について、インタビューガイドを用いて質問した。
3.結果と考察
1)調査参加者の職種は人事労務担当者が27人(62.8%)を占めた。業種は製造業が16人(37.2%)と最も多く、事業場規模は100-299人が19人(44.1%)で最多であった。
2)事業場の「ストレス反応」について、何らかの問題を認識していた調査参加者は34人(79.1%)であり、その内容は「疲労感を持つ人が多い事業場である」53.1%、「活気がない人が多い事業場である」「イライラ感を持つ人が多い事業場である」「抑うつ感を持つ人が多い事業場である」「身体愁訴を訴える人が多い事業場である」が各18.8%であった。
3)事業場の「ストレス反応に影響を及ぼす要因」について、何らかの問題を認識していた調査参加者は32人(74.4%)であり、その内容は「身体的労働負荷が高い事業場である」「上司からのサポートが得にくい事業場である」各38.2%、「量的負荷が高い職場である」35.3%、「対人関係に問題がある事業場である」32.4%、「同僚からのサポートが得られにくい職場である」29.4%であった。
4)調査参加者から提供された職場環境改善の取り組み事例は75事例であった。そのうち、ストレス状況(ストレス反応またはストレス反応に影響を及ぼす要因)に対応した取り組みで、かつ取り組みの効果(有用性)が調査参加者の言葉で明確に表現されていた事例を好事例と定義し、39事例(52.0%)を抽出した。現場では集団分析結果の解釈や活用の仕方がわからないといという意見が多く聞かれ、ストレスチェックを起点とした好事例を抽出できた意義は大きい。好事例に共通する取り組み内容として、トップの理解、担当者の熱意、従業員参加の取り組み内容、スタッフの信頼関係等の内容が読みとれた。今後はさらにこれらの点を深堀し、多くの事業場で活用可能な取組み方法を提案していきたい。

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