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研究・調査

富山産業保健総合支援センターの調査研究コーナー

(平成9年度)
電力工事会社における腰痛の実態
主任研究者 富山産業保健推進センター相談員 柳下 慶男
共同研究者          〃  所 長 広瀬 友二
               〃  相談員 鏡森 定信
               〃  相談員 市堰 英之
               〃  相談員 橋本 栄一
               〃  相談員 北川 豊子
富山医科薬科大学保健医学      教 授 加須屋 実

1.はじめに
 近年事業場における腰痛はよくある主訴であり、年々それが増加傾向にある。そのため、平成6年には腰痛予防対策指針が打ち出され作業者に対する教育・指導が急務となっている。
 そこで本研究では腰痛多発作業のひとつである電気工事会社における有所見者の実態を明らかにして指針に沿った衛生教育を徹底するためのアンケート調査を行い、また対策のひとつである骨盤ベルトの効果について表面筋電図を用いた測定で検討した。

2.対象と方法
(1)H電気工事〓の社員540名を対象に、身体的特徴、嗜好の有無、腰痛の有無、就労中動作と日常動作について無記名・自己記入にてアンケート調査を行った。アンケートの中で腰痛の程度はJOA(日本整形外科学会)スコア(23点満点、腰痛が全く無い人が満点)を用いた。其の結果、男性497人、女性43人の540人全員から回答が得られた(事務系208人、実務系331人)。アンケート結果はJOAスコアを悪くする要因分析を悪くする要因分析を中心に多変量統計分析を行った。

(2)アンケートの中の腰痛の程度を示すJOAスコアが16点以下の被検者(腰痛があると判断される)を対象に表面筋電図(EMG)を計測し、統計的に分析を行った。
EMGは腹部3ヶ所、腰部2ヶ所に装着し、筋肉の活動性を評価した。電極の部位はチャンネル1を右腹部(臍部より3横指)、チャンネル2を左腹部(臍部より3横指)、チャンネル3を右背部(チャンネル2の裏側)、チャンネル4を左背部(チャンネル1の裏側)にくるようにはりつけて測定した。
動作は1〜5秒の間で中間位から前屈位へ、5〜10秒の間で前屈位から中間位へ、11〜15秒の間で中間位から後屈位へ、16〜20秒の間で後屈位から中間位へ、21〜40秒は1〜20秒の動作を繰り返し行った。但し、前屈は45度、後屈は最大値とした。これらの動作は決められた時間内に勢いをつけず行うよう指導した。このような動作によって記録された表面EMGの波形について、動作の100msecごとに平均された積分筋電図上の最大筋活動量をt検定を用いて統計検定を行った。

3.結果と考察
 3.1 アンケート調査の結果分析
  対象の社員540人(有効回答率88%)のアンケート調査の結果、平均年齢42歳、平均身長169cm、平均体重66kg、平均BMI23kg/〓であった。
 図1にアンケート結果のうち、目的変数として腰痛の指標のJOAスコアの分布を示した。この図からスコアが16点で大きく分布が変化していることがわかったので、腰痛の判定基準を16点以下とした。
 表1に腰痛の説明変数として5項目を取り上げて、腰痛の有無を目的変数に多重ロジスティック分析を行った結果を示した。腰痛の要因として、年齢(高年齢程腰痛が多い)、飲酒(飲酒群に腰痛が多い)、職種(事務系の腰痛が多い)の3つが5%の危険率で有意に腰痛に寄与していることが判った。

 3.2 表面筋電図の測定結果の分析
 表面筋電図の測定結果を腰部固定帯(腰部ベルト)の有無別・運動方向に図2に示した。人数が少なかったために統計的に5%有意とは言えなかったが、腰部ベルトが腰部を固定し、筋肉の動きを少なくしていることが示唆された。また、運動方向別では前屈から中間への移動が最も筋肉を使用していることが示唆された。
 また、腰痛の強い群はそうでない群に比べて5%有意で持続運動時の背筋疲労度(初回の動作に比べて何%筋肉の動きが低下するか)が強いことが判った(図3)。

4.まとめ
 腰痛は、年齢的なものだろうと軽視して治療を受けなかったりすることの多い疾患でもある。本研究では540人に対するアンケート結果から座業や飲酒といった労働・生活要因も関連していることを明らかにした。一方、表面筋電図測定の結果から、前屈から体をもどす際に筋肉活動の負荷が強いことや腰部ベルトはこの負荷を支えること、腰痛者では背筋疲労度が高いことなどが明らかになった。
 無論、これらの結果を応用しても腰痛を根絶するのは難しいものであるが、いかにして腰痛を付き合っていけばよいかという教育・指導に寄与する一助を得られたと考えられる。


表(1)腰痛とその要因の多変量統計分析
  偏回帰係数 標準誤差 自由度 有意水準
年齢 -0.0211 0.0106 1 p<0.05
飲酒 -0.7808 0.2400 1 p<0.01
BMI -0.0558 0.0398 1 N.S.
職種 0.6087 0.2648 1 p<0.05
喫煙 0.0787 0.2286 1 N.S.
N.S.;有意差なし

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