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研究・調査

富山産業保健総合支援センターの調査研究コーナー

平成8年度
機械製造事業所におけるアルコール依存と関連問題の実態
主任研究者 富山産業保健推進センター相談員   三川  正人
共同研究者         〃    所長   広瀬  友二
              〃   相談員  鏡森  定信
              〃   相談員  市堰  英之
              〃   相談員  青島  恵子
              〃   相談員  橋本  栄一
              〃   相談員  北川  豊子
              〃   相談員  柳下  慶男
      富山医科薬科大学医学部教授    加須屋 実

1.はじめに
 近年職域におけるストレスの増大は、安価で身近なストレス緩和剤としてのアルコールを各人各様に処方する機会を増やしている。
しかし職域における日常的な問題飲酒の把握や指導についてはいまだ手探りの状態である。
 ある機械製造の職域における飲酒の実態を明らかにすることにより、飲酒関連問題を産業保健活動に取り組むための手がかりを得ることとした。

2.対象と方法
 某機械製造(工具、軸受、産業用ロボット、油圧システム)事業所に就業する男性1.000名を対象に記名封書方式での質問票による飲酒実態調査を平成7年12月より1ヶ月間で行ない、事務系、専門技術系、生産現業系、営業系の各職種より大きな偏りなく816名(平均43.5才、40才以上67%)の回答が得られた。
 回答票は職種職階、勤務形態、病歴、飲酒状況、久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)の他、飲酒理由や飲酒自己評価に関する回答から構成され、自己診断ができる形とし、これに検診の健さ結果を加えた。アルコール依存度あるいは飲酒状況と飲酒関連の病歴さらに肝障害などとの関係について年齢、職種職階、勤務形態別等に検討した。

3.結果

(1)問題飲酒の実態
 20.5%の高率で問題飲酒が見られた。加齢に従い増加する傾向にあり、40才以上では未満に比して約2.1倍であった。職種に関しては生産現業系〈28.4%〉、営業系〈23.4%〉、事務系〈15.6%〉、専門技術系(10.7%〉の順でどの職種も管理職で多かった。
 当然ながら飲酒量別に検討すると、1合/日までは僅か 3%であったが3〜4合では50%が重篤飲酒になるなど飲酒量との強い関連を認めた。また、交替勤務者では飲酒状況に差は無かったが、問題飲酒が多かった。

(2)肝昨日障害(γ-GTP≧50)の実態
 15.9%の比較的高率で障害がみられた。飲酒量をそのまま反映して、営業系〈27.9%)で最も高く、次いで事務系(20.9%)、専門技術系(14.3%)の順であったが、飲酒量が営業系に次いで多かった生産現業系は最も少なかった(13.1%)。
 肝障害の多かった営業系や事務系ではいずれも一般職に比べて管理職に多く、肝障害の最も少なかった生産現業系では逆に一般職で多かった。但しγ〓GTPと依存指数は統計計算上は相関するが、重篤問題飲酒90名でγ〓GTP 100以上が 8名にすぎず実際上γ〓GTPはアルコール依存の単独指標に全くなり得ないことが判った。

(3)飲酒関連疾患とアルコール依存度
 関連疾患のうち十二指腸潰瘍の病歴のあるもので依存指数が有為に高いことが(p<0.01)(KAST、AUDITとも)、また肝職業病、糖尿病(KAST)さらに高血圧症、胃潰瘍(AUDIT)の病歴のあるものでも依存度が高かった(表)。

(4)飲酒に対する自己評価
 大酒家を除き飲酒量が増える程問題飲酒を自覚している場合有意に増えた。
 また、飲酒量を減らしたいと考えている割合も同様に飲酒量とともに多く、さらに、節酒のやり方や酒の功罪に関する情報入手の希望が全体の20%にみられた。
 しかし、これに対し積極的に相談したいと考えている人の割合は2%以下と極端に少なかった。

4.考案および結論
 5人に1人という予想を超える高率で問題飲酒がみられ、ことに生産現業系、営業系で高かった。また飲酒量は、アルコール依存度や肝障害に明確に反映されることが判ったが、特に、γ-GTP単独ではアルコール依存の指標に全くなり得ないことが判った。さらに、病歴との対比から消化性潰瘍、糖尿病、肝障害、高血圧症の職員で問題飲酒で悩んでいる人が多い傾向が推定され、節酒が求められていることも判明され、節酒に関する情報が求められていることの判明した。心身にわたり健康のために節酒の重要性があらためて示された結果であったが、現行の検診だけからhighrisk群を抽出することはきわめて難しく、あらためてスクリーニングテストの有用性が示された。
 飲酒に対してわが国はとりわけ寛容な社会であり、それだけ飲酒問題は職域に限らず顕在化しないままひろがりをみせる可能性が十分に考えられる。
 今回示されたように飲酒問題は、職種、職階などに強く関連した事項でもあることから、職域でのより積極的な取り組みが肝要と思われた。

AUDIT スコア〓  KASTスコア〓
関連疾患 病歴
あり   なし
有意差 病歴
あり   なし
有意差
高血圧症 8.11 7.13 ※※(M.W.) -2.13 -2.74 N.S
心臓病 7.56 7.23 N.S. -1.97 -2.70 N.S.
胃潰瘍 7.95 7.15 ※(M.W.) -2.48 -2.69 N.S.
十二指腸潰瘍 8.19 7.10 ※※ -1.70 -2.81 ※※
肝臓病 8.34 7.19 N.S.(M.W.) -1.89 -2.70 ※※(M.W.)
糖尿病 8.74 7.21 N.S. 1.32 -2.76 ※※※
高脂血症 8.48 7.20 N.S. -1.59 -2.70 N.S(M.W.)
高尿酸血症 7.84 7.22 N.S. -2.51 -2.67 N.S.
不眠症 6.00 7.26 N.S. -4.86 -2.64 N.S.(M.W.)
※:P<0.05 M.W. Mann WhitneyのU検定(非等分散分析)
※:P<0.01 他はUnpaired t-test(等分散分析)

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