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研究・調査

富山産業保健総合支援センターの調査研究コーナー

平成7年度
職場におけるアルコール問題へのアプローチに関する研究
主任研究者 富山産業保健推進センター相談員  青島  恵子
共同研究者     〃       相談員  橋本  栄一
          〃       相談員  市堰  英之
          〃       相談員  柳下  慶男
          〃       相談員  三川  正人
          〃       相談員  北川  豊子
      富山医科薬科大学医学部 教授   加須屋  實
         〃        助教授  寺西  秀豊

1.はじめに
 アルコール消費量の増加、飲酒に関する意識、習慣の変化により、アルコール依存症が増加している。しかしながら職場におけるアルコール問題は、個人の習慣として、あるいは肝機能障害などの身体的問題として取り上げられることが多い。その理由のひとつに、アルコール問題を産業保健活動として取り組む意義や手法についての体系化が未だ確立されていないことがあげられている。アルコール問題を産業保健活動としてとらえ、職場においていかにアプローチしていくかが問われている。本研究では、事業者側の問題意識の形成と対策援助システムの開発のために、その資料材料を得ることを目的に、富山県内1,446企業を対象にアルコール問題とその対策に関する実態調査を実施した。

2.対象と方法
 富山県内1,446企業に9項目かなる「企業におけるアルコール症対策に関するアンケート調査」票を郵送配布した。無記名の郵送回答法により回収した。調査期間は、平成8年2月9日から平成8年3月15日である。

3.成  績
1、調査票回収数、回収率:回答企業数は673社、回収率46.5%であった。
2、アルコール問題の実態とその対策に関するアンケート調査結果
(1)アルコール飲用と関連した職場問題との遭遇
「遭遇」とと回答したのは13.8%の企業(91社)であり、78.8%の企業(521社)が「遭遇したことがない」と答えた。「遭遇したことかがる」場合の具体的記載企業は91社中68社(74.7%)であり、「アルコール症における長期加療」がもっとも多くみられた。次いで「勤務中の飲酒」、「交通事故」の順となっていた。「アルコール症における長期加療」後の転帰が記載されている回答では、「退職した」が目立ち、「現在立ち直っている」と記載してあったのは1社のみであった。

(2)アルコール飲用に関する職場問題の存在
 アルコール飲用に関すると考えられる職場問題として8項目を呈示した。そのうちもっとも多かったのは、「健康診断における肝機能異常の指摘」であり、53.6%(380社)の企業が回答した。次いで、「肝臓病、高血圧症、糖尿病など」の疾患例がみられることであり、36.7%(260社)であった。以上回答した企業は、少ないが、「休日後の遅刻、欠勤、早退」、「勤務中の飲酒」、「交通事故」の順に職場問題がみられた。問題1の「遭遇」でもっとも多かった「アルコール症による長期加療」を回答したのは一企業のみであった。「その他」として「アルコール性肝臓元による死亡」の具体的記載があった。

(3)アルコール症あるいはアルコール問題対策の実施対策をしている企業は10.5%(57社)であり、86.2%(466社)は対策を実施していなかった。実施している対策としては、「問題飲酒者に対する具体的指導」がもっとも多く30社(21%)、次いで、「パンフレットビデオを利用した教育啓発」21社(14.7%)、「講演、研修等の実施」20社(14.0%)、「健康診断結果と飲酒との関連の検討」16社(11.2%)の順となっていた。「会社の行事での飲酒を控えた」という対策を実施していたのは6社(4.2%)であった。「対策マニュアル等を作成」した」企業はなかった。

(4)対策実施の予定の有無
 今後のアルコール対策実施について、5.5%(30社)が予定していた。66.8%(362社)が予定していなかった。27.7%(150社)が「わからない」と回答した。
 今後予定しているアルコール対策は「健康診断結果と飲酒との関連の検討」18社(27.3%)、「教育、啓発のためのパンフレット・ビデオの利用」11社(16.7%)となっていた。アルコール症対策の実施を予定していない理由を9項目から重複選択 してもらった。
 141社(31.3%)が「あまり考えたことがなく」次いで、91社(20.2%)が「社員の個々人の嗜好の問題」とし、70社(15.6%)が「遅刻や欠勤がない」を選択していた。

(5)アルコール教育の場
 「家庭」がもっとも多く33.0%(287社)、「マス・メディア(TV、新聞、雑誌等)」がそれに次ぎ27.6%(240社)、「職場」は第3位で20.3%(176社)、「学校」は第4位で12.8%(111社)となっていた。

(6)アルコール問題の相談先
 49.3%(280社)が「産業医」を挙げていた。次いで「富山産業保健推進センター」11.6%(66社)、「公的病院」10.9%(14社)の順になっていた。
 アルコール問題について産業医に指導があったのは72社(16.1%)、320社(71.8%)では産業医の指導はないと回答した。産業医の指導としては具体的には、個別面談、教育講習が多く、労働安全衛生委員会での議題とりあげなどは少数であった。

(7)アルコール対策についての産業保健指導機関への要望
 要望6項目からの選択では、「対策・指導マニュアル等の発行」、「指導・相談機関の整備・充実」が多く選択されていた。

4.結果と考察
 職場におけるアルコール問題に関する事業者側の形成と対策のための援助システムの開発のために、その基礎材料を得ることを目的に企業におけるアルコール問題とその対策に関する実態調査を実施した。富山県内1,446企業に調査票を郵送配布し、673社(46.5%)より回収した。調査票の解析の結果、富山県内の企業においても、Accident(事故)、Absenteeism(無断欠勤)、Alcoholism(アルコール依存症)のいわゆる3Aの問題を抱えていることが判明した。しかしながら、「アルコール症による長期加療」の問題があると回答したのは1企業のみであり、アルコール依存症により長期加療となった場合は退職したり、あるいは解雇される現状を伺わせた。アルコール飲用に関連した肝機能異常の指摘(53.6%)が半数以上の企業にみられることから、アルコール症ならびにアルコール問題の早期発見、早期対処こそが必要であろう。アルコール問題に直面した場合、産業医にまず相談したいと考えているが、実際の産業医活動としての取り組みの現状は充分ではなかった。「対策・指導マニュアル等の発行」、「指導・相談機関の整備・充実」の要望を具体化するに際し、産業保健活動を明確に位置づけたものを開発していくことが必要と思われた。

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