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研究・調査

富山産業保健総合支援センターの調査研究コーナー

平成13年度
富山県の小規模事業場における産業保健活動の現状について
主任研究者 富山産業保健推進センター 相談員 三川 正人
                     〃 鏡森 定信
                     〃 金   清

1、はじめに
 従業員50人未満の事業場(小規模事業場)においては、衛生管理者や産業医の選任義務が無いこともあり、その産業保健活動はかなり低調と推測される。小規模事業場に働く労働者に対する産業保健サービスを充実させることを目的として県内には4つの地域産業保健センターが設置されているが、利用状況は一部のセンターを除き必ずしも活発とはいえない。小規模事業場において、どのような産業保健活動が展開されており、どのような産業保健サービスの提供を希望しているかなど、その実態を調査することは、今後の地域産業保健活動指針にも、また、小規模事業場の産業保健活動の活性化にも必要且つ重要と考える。このような観点から、調査の結果を踏まえ今後の地域産業保健センターの効果的活用やセンター機能の充実について若干の考察をくわえた。具体的には、県内における50名未満の小規模事業場の産業保健活動の実態、健康管理、作業環境管理、作業管理を中心に、その実情をアンケート調査および必要が生じた際は聞き取り調査を行うこととした。これにはまた、地域産業保健センターの認知度、利用度また地域産業保健センターに対する意見、要望等も加えた。

2、対象と方法
 平成13年10月から14年1月の間に、県内における事業場のうち50名未満規模の事業場約8,000社から各業種毎に5分の1の抽出率で無作為で1,600社を抽出し、それらの事業場に対してアンケート用紙を送付し、記名にて回収した。アンケートでは事業場の基本情報(企業規模、事業場従業員数、事業の種類等)のほか事業場の安全衛生管理体制、健康管理、作業及び作業環境管理、安全衛生教育、メンタルヘルスのほか地域産業保健センターの認知度、利用度あるいは意見要望をなるべく取り込み易いように、極力選択肢選ぶ形をとって訊ねた。得られた回答は567通(35.4%)であったが、基本情報(業種、従業員数など)が極めて不完全なものと回答がほとんど未記入のものについては割愛し、 490通を対象として用いた。また統計処理はt検定、χ2検定等を用いた。

3、結果

(1)事業場の属性について 事業場の規模から便宜上従業員数9人以下〓群(49社)、 10人から29人〓群(276社)、30人から49人〓群(165社)にわけた。業種では製造業が177社で最も多く、次いで建設、土木業156社であったが他業種は、商業46社、金融19社など含めても残りすべてで157社で非製造業としてまとめて取り扱うこととした。

(2)安全衛生管理体制労働衛生担当者は衛生推進者および安全衛生推進者でも50%程度の配置で、25%は衛生管理者残りは無資格者であった。それでも10%に産業医が選任されていた。職場巡視は事業主を中心に60%以上で実施されていたが、安全衛生委員会は〓群を中心に3社に1社が衛生管理者を中心に開催されるに過ぎない。疾病統計は12%しか取らないし、福利厚生施設の充実は10%と低迷していた。

(3)健康管理 定期健診は96%の実施だが、雇い入れ時検診は41.6%、特殊健診59.3%と著しく低く、非製造業で目立ち、安全衛生上看過できない。経営難にかかわらず会社負担で31.1%は人間ドックを実施、法定外の心電図や胃透視検査は目を見張った。81%は専門健診機関を利用し、必ず問診と診察を受けていた。製造業を中心に44%で腰痛が目立ち、生活習慣病そして視聴覚障害も目立った。しかし、衛生管理体制の不良な14社では健診結果が全員に知らされていなかったし、事後指導は約40%で実施されていなかった。結果記録はほぼすべてで保管されていた。

(4)作業および作業環境管理 有害事業場(110社)は6割が製造業に集中し、4分の3は粉塵作業と有機溶剤業務であった。16社(15%)で作業主任者の選任ができておらず、24社で(22%)環境測定が実施されていなかった。いずれも関連の管理体制は不充分であった。管理区分2&3の10社では保護具使用および設備の改善が図られた。

(5)安全衛生教育 雇い入れ時、職長就任時あるいは有害業務配置換え時等における教育はいずれも50から60%あたりを低迷しており、改善が必要である。リーダーが不在だったり、制度を熟知していないなどが理由として挙げられていた。製造業を中心にして約30%が過去3年間で外傷など労災を経験していた。対策として注意の喚起、手順の改善さらに教育の強化など費用の余りかからない手段がとられている。

(6)メンタルヘルス 1割程度の事業場だけが精神的な問題で困ったと回答があり、同じく1割程度の事業場だけがこの問題に偏見や差別があるとしている。ただ、抱えた場合の対応については43%が、家族と協力するとしながらも、3社に1社以上はあくまで個人と家族の問題としてあまり深く関われないとしている。さらに相談相手として、一般の職場上司(28%)と近くの一般病院(26%)を選んでおり、地域産保センター(4%)はおろか精神科医(7%)も当てにされていない様子が明らかとなった。

(7)その他 地域産業保健センターについての認知度はおおよそ半数に達していたが、業種間では差は無く規模が大きいほど、安全衛生体制の整備されている事業場ほど知られている傾向にあった。訪問指導制度に関しては3分の1だけが知っており、利用希望は20%余りにとどまった。必要性を感じないというのが最大の理由(40%)であった。今後の産業保健活動についての抱負では4分の3の事業場で健康管理体制の整備か、快適職場の構築いずれかを目標に掲げていたが、とりあえず現状維持も20%ほどあった。地域産業保健センターについての希望意見では、「もっと知りたい」、「知らないかたに教えたい」、「メンタルヘルスの研修会を希望する」、「県外に行っている売薬の職員の健康管理で悩んでいる」など、積極的に利用していきたいとする強い意欲が具体的に見られた。


4、考察
 本県の50人未満の小規模事業場においては、安全衛生管理体制については、法定に照らしても決して十分なものではなかった。また健康管理についても、定期健診を除いてほかの健診は受動的で50から60%しか達成されていない。作業および作業環境管理についても、環境測定も同様に50%台と低い。大企業に比して有害業務の割合がはるかに高い小規模事業所でこの現状を見るとき、不十分な体制に満足しているか定かでないが、安全衛生教育が50%台にあるという事実自体が、健康管理全体に関する欠陥に気がついていない可能性を強く示している。メンタルヘルス問題では、遭遇機会が実際少ないことも手伝ってか、対応が極めて稚拙であることも判明した。全体にみて、今回多くの未達成の状況の背後に、体制の不備と知識の不足が少なからず潜んでいることも確認できた。小規模事業場から真に能動的に受け入れられる地域産業保健センターの活動の原点を、あらためてこのあたりの視点に据えていかなければならないと示唆してくれたことでは、本調査は有用であったと思われた。


●「地域産業保健センターについて御存知ですか。」

            「は い」    「いいえ」
          233社(47.6%)   247社(50.4%)

             有  無     有  無
・産業医選任      38社 195社    10社 237社
・衛生管理者選任    65社 168社    55社 192社
・安全衛生委員会開催 124社 109社    73社 174社
・雇入れ健診     108社 116社    96社 141社

         「はい」233社(47.6%)

   規模別 〓: 1〜 9人 17 / 47社 34.9%
         〓:10〜29人 117 /276社 42.4%
         〓:30〜49人 99 /165社 60.0%
  
   業種別 A:製造業    88 /199社 49.7%
         B:建設・土木業 73 /156社 46.8%
         C:その他    72 /157社 45.9%

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