【所長コラム】鏡森定信

木と森を診る産業医

 今般の労働安全衛生法の改正により産業の権限・役割は相当拡充された。
例えば、「労働者の健康管理等を適切に行う際に必要となる情報を産業医に提供することの事業者への義務付け(第13条第4項)」は、産業医が就業指導を行ったり労務管理側に意見を述べたりするとき大切な情報である。具体には、①健診や面接指導後に講じた措置、②長時間労働者、③労働者の業務などの情報が示されている(則第14条の2第1項)。労働時間や有休取得の個別的な把握も新たに加えられ、情報の質は高まった。いいことには違いないが、特定の労働者の情報に重点が置かれており、本来労使間(職場)で対応すべきなのに産業医に過重な負担を強いることにならないか危惧する。
 情報提供では、各部署の時間外労働、有休取得、治療、保育・介護休暇などをグラフ化して職場全体で共有しながら時間単位でこれらの取得を実現し、つながり感のある職場形成の一助とした例も出てきている。
 治療と職業生活の両立支援の主治医意見書や勤務情報提供書そして職場復帰プランなど個人の情報提供は進んだ。一方で、相当な期間治療を要する労働者の雇用不安に対する職場の制度的充実が急がれる。「木は森の中で育つ」。

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