【所長コラム】鏡森定信

就労と健康維持の両立

  -女性労働者の飲酒-

 就労と病気の治療との両立では、女性労働者の乳がんが先導的な役割を果たした。

 ここでは病気の治療ではなく健康維持の面から飲酒を考えてみたい。飲酒率の性差をみると2000年代の初頭の調査ではどの年齢層でも男性の方がまだ高かった。それが2008年になると20代前半で、男性の83.5%に対し女性が90.4%と逆転し、1日にビールで中瓶3本以上飲む多量飲酒者も、20代女性で増加傾向となった。女性の社会的進出に伴い飲酒機会も増えている。専門家は、「習慣的には適正飲酒量は、一般的には1日にビールなら中瓶1本、日本酒なら1合程度で、女性の適量はその半分と考えてもらった方がいい」という。

 2015年、米国小児学会は「妊娠中の飲酒は、その量や時期にかかわらず胎児に不可逆的な影響がある」と警告している。具体には、小頭症や顔面の形態異常、脳萎縮や発達障害である。女性ホルモンはアルコール分解を妨げるので、飲酒量が同じでも男性よりずっと短い年数で依存症になるし、アルコールを分解する肝臓の大きさも男性より小さいため肝障害のリスクが高い。

 就労と病気の治療との両立が叫ばれ、産業保健関係者に強引に職域での役割を振っている感がある。産業保健の主戦場は、就労と健康維持の両立という予防を優先した取り組みにある。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加