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研究・調査

富山産業保健総合支援センターの調査研究コーナー

平成25年度
小規模事業所の健診有所見率改善を志向した情報と人材の活用に関する調査研究
主任研究者   富山産業保健推進連絡事務所相談員  小杉 由起
共同研究者   富山産業保健推進連絡事務所相談員  中林美奈子
共同研究者 富山産業保健推進連絡事務所代 表  鏡森 定信


1 はじめに

労働安全衛生法に基づく50人以上の事業所における定期健康診断有所見率は平成11年の43%から年々増加し、平成23年度には52.7%まで上昇している。また詳細な報告は無いが法令による規定が緩い50人未満の事業所については更に高い有所見率が推測され、事業所規模に起因する健康レベルの格差が懸念される。  
これまでの先行研究から、有所見率が上昇する要因を解明することと全労働者の半数以上を占める50人未満の小規模事業場労働者の有所見率を改善することが全労働者の効果的な有所見率改善につながると推測される。以上のことより、有所見率上昇、特に小規模事業場における有所見率上昇の要因抽出と改善策を探る為、調査研究を企画した。


2 方法

(調査方法)
平成25年12月に郵送法による記名式質問紙調査を実施した。質問紙の内容は、〓事業場の属性(回答者の職位、業種、従業員人数)、〓健康管理スタッフの種類、〓労働衛生管理活動実施の状況(定期健診、定期健診報告書の提出、労災2次、保健指導、精検勧奨、安全衛生委員会の開催、健康情報の周知、メンタル対策、健康教育、健診結果の分析等の評価)、〓健診結果を良くするための方策(自由記載)とした。
記名された事業所については、A健診センターに蓄積された情報を用いて、事業所ごとの平成24年度、25年度の定期健康診査の有所見率を算出し、質問紙調査データと突合した。この場合の有所見者

の定義は「要観察」以上とした。

(分析対象)
回答が得られた事業場は594事業場(回収率:594/2000対象数=29.7%)であった。このうち、事業場の属性である回答者の職位、業種、従業員人数のいずか1つ以上に未記入があった15事業場を除く479事業場(対象の80.6%)を分析対象とした。

(分析方法)
1.従業員人数50人未満と50人以上別に、健康管理スタッフの種類、労働衛生管理活動実施の状況をχ2検定により比較した。
2.従業員人数50人未満と50人以上別に、健診結果を良くするための方策を列挙し、内容の類似性によりカテゴリー化した。
3.分析対象のうち記名があったのは91事業場であった。そのうち、24年度・25年度の有所見率が突合できた事業所は78事業場であった。この78事業場について以下の分析を行った。
(1)有所見率を3分位法により、有所見率が低い方から1/3を「有所見率低い」、2/3を「有所見率高い」とした。
(2)健診年度(24年度/25年度)と有所見率の高低(低い/高い)の2次元の組み合わせにより4カテゴリーを設定し、有所見率の変化を規定した(次図)。
(3)ベースラインの有所見率が「低い」で共通する良好維持群と悪化群について、質問紙調査で得られた労働衛生活動状況との関連をχ2検定により比較した(悪化要因の抽出)。
(4)ベースラインの有所見率が「高い」で共通する不良継続群と改善群について、質問紙調査で得られた労働衛生活動状況との関連をχ2検定により比較した(改善要因の抽出)。



  24年度有所見率
低い 高い
25年度有所見率 低い 良好維持群
(14事業所) 改善群
(11事業所)

高い 悪化群
(44事業所) 不良継続群
(9事業所)


3 結果

1)従業員人数50人未満(小規模事業場)の特徴
・従業員人数50人未満と50人以上の事業場では全く異なる労働衛生活動状況(50人未満の事業場の労働災害保険給付二次健診の周知割合は20%、メンタルヘルス対策を行っている事業所は9.3%など)が示された。
・小規模事業場では中・大規模事業場に比べて回答者の職位が衛生管理担当者(資格の有無問わず)が少ない
・50人未満では、建設業が多く、製造業が少ない
・50人未満では、定期健康診査の実施状況に差はないが、その他の項目ではネガティブな回答が多かった。

2)有所見率の変化
・維持群は14事業所(17.9%)、悪化群は44事業所(56.4%)、改善群は11事業所(14.1%)、不良継続群は9事業所(11.5%)であった。

4)良好維持群/悪化群と労働衛生活動状況との関連
・改善群では不良継続群に比べて健康教育実施ありと回答した者の割合が有意に高かった。その他の項目に関しては両群に有意な差は見られなかった。


4 研究成果の活用予定

定期健康診断有所見率上昇の要因、特に小規模事業所における安全衛生の取り組みの実態と関係者が改善の為に実施したい事項を明らかにするための一助となる結果が得られた。この結果をもとに、効果的な有所見率改善の方策を立て、労働衛生機関・行政などが介入することにより、有所見率の改善、業務関連疾患の発生低下が期待でき、労働者、特に小規模事業場労働者の健康レベルの改善が期待される。
また研究結果を当連絡事務所のホームページやリーフレットに利用して、労働衛生機関・産業保健スタッフ・行政・事業所に公開し、定期健康診断の有所見率改善のための活動に利用してもらう。
労働衛生機関などにも今回の結果を周知していただき、今後中小規模事業場への産業保健サービスへの介入をする際、利用してもらう。
                        


5 考察
 
1.有所見データとアンケートデータがリンクしたのが78例と少なく、解析数の不足で有意差がでないことに影響してしまった。

2.産業保健活動状況は、小規模は小規模なりに、大規模穂大規模なりに、現行の労働衛生体制の中で粛々とされているように思われた。本対象は、定期健診を毎年受けている事業場なので、事業場規模の差を除けば、活動状況にあまり差はないように思われる。

3.有所見率の違いは、従業員の年齢・性別構成等による影響も大きい可能性がある。

4.回答者の自由記載に多くあったのは、会社の体制整備と共に「個人の努力」をどう導いていけばいいのかという課題であった。社会環境の整備は大事な課題であるが、産業保健が真に労働者の検査データの改善を目指すのであれば、労働者個々人の努力は不可欠で、個々人の努力を置き去りにして、有所見率の改善は見込めないと考えられた。

 

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