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研究・調査

富山産業保健総合支援センターの調査研究コーナー

平成22年度
富山県内事業場におけるメンタルヘルス取り組み状況の縦断的研究
主任研究者   富山産業保健推進センター相談員 角田 雅彦 
共同研究者   富山産業保健推進センター相談員 平野 正治
共同研究者   富山産業保健推進センター相談員 木戸日出喜
共同研究者   富山産業保健推進センター所 長 鏡森 定信

1 はじめに
富山産業保健推進センターでは、平成12年度と平成17年度に富山県内事業場におけるメンタルヘルス取組み状況についての調査を行った。今回、さらに同様の調査を行うことにより、この10年間の富山県内事業場におけるメンタルヘルス取組み状況の推移を明らかにすると同時に、この縦断的な調査により、取組み阻害要因が浮き彫りになるのではないかと考え調査研究を企画した。

2 調査の方法
 以前と同様に、富山産業保健推進センター(以下、富山産保センターと略)登録のサービス事業所1494社(平成17年度調査は1447社、12年度は1239社)及び富山地域産業保健センター(以下、地域産保と略)登録の事業所374社(平成17年度は402社、12年度では360社)に25項目からなるアンケート調査を富山産保センターから送付し、その結果を、前回及び前前回調査と比較した。調査期間は平成21年11月10日から平成22年2月12日までであった。 また、阻害要因の事例検討を行った。

3 調査結果 (表1,2参照)
 1847事業所に載配布した郵送したアンケートの調査票の回収率は33.3%(平成17年度は32.3%、12年度6.4%)であった。                     
回答した事業所の概要を表1に示した。小規模事業所、サービス業の割合が増え、産業医を配置しない事業所の割合も微増した。

表1.回答した事業所の概要                         
各項目の割合(%)
50人未満事業所の割合33.5(22年度)28.4(17年度)15.5(12年度)
サービス業の割合21.1(22年度)16.6(17年度)16.3(12年度)
製造業の割合34.8(22年度)42.3(17年度)43.6(12年度)
産業医を配置しない
事業所の割合35.8(22年度)35.1(17年度)20.5(12年度)

各調査事項に対する回答割合を表2に示した。これを概観すると職場で心の健康問題に遭遇する割合は増えて
おり、厚生労働省などからの指針や手引きの認知度や利用度も経年的に増加していた。しかしながら「職場での心の健康対策が必要だと思う」の割合が55.3%にとどまり、17年度調査時点から微増しているにすぎなかった。なお、職場のメンタルヘルス事例への係わりでは、直属上司の割合が減少し産業医のそれが増加していた。
なお、事例検討からは、職場でのメンタルヘルス対策の必要を認識していない事業者の割合がいまだに多いこと、取組が始まってはいるが計画的に基づき体系化までに至っていないこと、衛生管理者の係わり不足などが、阻害要因として重要との指摘があった。

4 考察
 メンタルヘルスの取り組み状況の変化を縦断的にみたが、表1にも示したように被調査対象の構成において、事業所規模50人未満が増えたこと、サービス業の占める割合が増えて製造業のそれが減少したこと、また産業医を配置しない事業所の割合が増加したことは、調査結果の解釈に際して留意する必要がある。いずれにしろ、小規模事業所が増え産業医を配置しない事業所が増えたことは、メンタルヘルスの取り組みを推進する構造的な阻害要因である。
次に各調査項目への回答結果を縦断的に概観した(表2参照)。職場における心の健康づくりに関する指針や手引きの情報の周知やその利用については、調査結果の変化を縦断的にみる限り確実に進んでいることがうかがえる。これらの変化には、心の健康問題の発生や復職時における問題発生を経験したと回答した割合の増加が関与しておると推察される。すなわち心の健康問題発生の増加が職場のメンタルヘルスの取り組みを始動させた面が強いと思われる。
 これらの回答割合の増加に比較して、「職場での心の健康対策が必要だと思う。」は、平成17年度と22年度の割合に大きな変化はみられていない。全体では約半数が
必要だと回答しているが、この割合は事業所規模が大きくなるとともに増加し、平成22年度の調査では事業所規模300人以上で96%が必要と回答していた。
規模の小さい事業所における心の健康問題の必要性がまだまだ認識されていないことが、全体としてメンタルヘルス取り組みの阻害要因になっていることが改めて明らかにされた。これに関しては、考察の冒頭でも指摘したように、本調査に回答した事業所の構成が、産業医を配置しないサービス業の小規模事業所が増えたことが背景要因として考えられよう。

表2調査項目への回答の変化(%)
調査項目とその回答割合
こころの健康問題事例の経験あり34.3(22年度)25.8(17年度) 18.2(12年度)
こころの健康問題(病気)での休務者あり14.7(22年度)10.2(17年度)5.0(12年度)
職場での心の健康対策が必要だと思う55.3(22年度)51.4(17年度)44.3(12年度)
職場での心の健康づくりの取り組みあり28.5(22年度)19.5(17年度)
職場の自殺予防マニュアル(13年度)の認知あり27.2(22年度)14.4(17年度)
職場の自殺予防マニュアル(13年度)の利用あり3.9(22年度)2.8(17年度)
休務者への復職に関する基準あり23.6(22年度)10.8(17年度)
復職に際しての問題発生の経験あり10.8(22年度)5.7(17年度)
心の問題で休業した労働者の復職手引き(16年)の認知あり27.6(22年度)12.9(17年度)
心の問題で休業した労働者の復職手引き(16年)の利用あり7.2(22年度) 2.0(17年度)
従業員の心の健康問題の担当は人事労務部に所属38.9(22年度)39.3(17年度)
従業員の心の健康問題担当は所属長27.2(22年度) 25.0(17年度)
従業員の心の健康問題の担当は直属上司20.9(22年度)25.6(17年度)
従業員の心の健康問題の担当は産業医24.8(22年度)17.7(17年度)

ところで、職場の心の健康づくりについて、ストレス対策の短期及び長期の目標と計画を立てているとした事業所は21.9%に過ぎなかった。これは、メンタルヘルスの取り組みが、マネージメントシステムによる労働衛生対策として展開されていないものがまだまだ多いことを示唆しており、取り組みの進展の阻害要因といえよう。職場環境のストレス要因の抽出や改善とその評価などの実施割合は10~20%と小さく、計画、実行、評価、次期計画への反映からなるPDCAサイクルを動かす取り組みの導入についてメンタルヘルス対策支援センターなどからの支援が必要である。
 なお、「職場の心の健康づくりに取り組んでいない理由」への回答では、「適当な担当者がいない(39.3%)」、「取り組み方がわからない(30.6%)」が、対応しうる主な阻害要因で、これらは特に300人未満規模の事業所の課題であることが示された。50人未満規模の事業所では経営者が従業員の心の問題を担当することが比較的多く(25%)、それより規模が大きくなるに伴いその割合が減少し、300人未満規模までは「適当な担当者がいない」が増大し、「取り組み方がわからない」も50人未満規模の事業所よりは増大する状況にある。実際には50人以上300人未満の規模の事業所では、人事労務者(30~50%)や衛生管理者(18~20%)が担当する割合が高くなっており、これらの職種に対してメンタルヘルス対策の推進者としての力量を増すよう重点的な支援が必要と考えられた。
 事例検討で指摘された「職場でのメンタルヘルス対策の必要を認識していない事業者の割合がいまだに多い」と「取組が始まってはいるが計画的に基づき体系化にまでに至っていない」に対しては、「職場が人を育てる。」との企業の社会的貢献にのっとり、事業所の中枢がメンタルヘルスの面でも労働者の支援を展開することにより検討した阻害要因の解消は大きく前進するものと考える。

5 まとめ
 これまでに3回実施したメンタルヘルスに対する事業所の取組の調査を縦断的に概観し、その阻害要因について検討し、メンタルヘルスの取り組みの一層の啓発そして企業の社会貢献としての取組の重要性を指摘した。
 なお、職域のメンタルヘルスの取り組みは、不調者や復職者の発生が契機になることが多い。トップがしっかりと理解し取組んでいるところでは、取り組みの始動や進展につながるが、そのような状況はまだまだ少ない。小規模事業所ではそれも容易ではない。各職場の取り組みに加えて、休業・復職に対する社会的支援の一層の拡充が望まれる。


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