【所長コラム】鏡森定信

仕事をして治す
~「終わった人」にみる産業保健への示唆~

 内館牧子さんの「終わった人」の主人公は、定年後持て余る自由時間に苦しんだ。再び社会とつながる仕事に巡り合い彼の人生は息を吹き返した。仕事の健康効果である。

たまたま同じ時期に、(公)産業医学振興財団の産業医学レビュー(2016年No3 )の「フイットノートの紹介と我が国への導入の検討(北里大医公衆衛生の堤教授)」を読んだ。フイットノートとは、英国の一般医(日本の開業医に近い)が作成する職場復帰診断書である。従来の休業のための診断書ではなく、主治医の助言を考慮することにより就労の可能性があると考えられ場合に臨床上配慮すべき必要最小限のことを記入する。段階的な復職と、職務、就業時間そして就業場所の各変更の4つのチェック欄と自由記載欄からなる簡潔なものである。休業が1週間を超えると発行され、年間1千万通に達するという。これに基づいて労働者と事業者が可能な対応を協議する。なお休業4週間以上では専門機関への照会となる。これには「疾病のために仕事を休む」から「仕事は健康に良い」へのパラダイムシフトがある。休業や復職までの期間を短縮し長期休業による弊害を避けるための制度的変革である。産業医には ①短期の職場復帰の重要性、②復帰の障害と促進要因、③復帰への自信などについて労働者とのコミュニケーション能力の向上スキルが開発されている。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加