【所長コラム】鏡森定信

健康経営と社会的統合

 新しい唱導の感が強いが、「健康経営」そのものは、1992年に経営学と心理学の専門家 ロバート・H・ローゼン著「The Healthy Company」で提唱されたものという。

「健康な従業員こそが収益性の高い会社をつくる」という考えがベースになっている。職場の健康には、福井の職場で集団発生した膀胱がんをあげるまでもなく、物理・科学的要因の危険への監視は引き続き重要である。一方では、休職の理由として最多を占めるようになった心理精神的要因に関わる休職への対応が焦眉の急となっている。これまでの調査研究によれば、労働者が仕事でより裁量権を持ち、過重でない仕事量をこなし、職場において十分なサポートを得られる労働環境の構築が健康経営の面からみても重要な理念となっている。

しかしながら職場で非正規労働者が多くなり、労働者の賃金格差が大きく同一労働同一賃金を唱えなければならない社会的統合の面からみも望ましいとは言えない現状では、この理念を社会にあまねく広めることは容易ではない。

職場での裁量権やサポートに加えて社会における裁量権やサポートについても思考し行動することが求められているのではなかろうか。海外の最近の状況をみても社会的統合が進んでいるとは思えない。社会における格差、とりわけ労働環境の格差の是正の視点から社会的統合を進めることが一層大切になってきているように思われる。

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